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新春! 与良政談2020


登壇者

2020年01月25日

与良 正男 氏

毎日新聞 専門編集委員

1957年生まれ。1981年毎日新聞社入社。長く政治取材に携わり、2014年から専門編集委員。社説や夕刊コラム「熱血!与良政談」を担当している。早稲田大学大学院客員教授、文部科学省「『熟議』に基づく教育政策形成の在り方に関する懇談会」委員等を歴任。TBSテレビの「Nスタ」や「サンデーモーニング」、「ひるおび!」などの報道番組でコメンテーターを務める。

 

民主政治を揺るがす、根幹的な問題。

講演1昨年、この場で厚生労働省の統計不正問題の話をしました。今後の産業・経済政策に関わる重要な基本データづくりにおいて、官僚が恣意的な調査による間違った数字を上げていた、という深刻な問題でした。今年も「桜を見る会」「カジノ疑惑」、河井案里参議院議員の「公選法違反、1億5千万円問題」の話をしなければなりません。

「マスコミも野党もそうした話ばかり。もっと大事な話があるだろう」とよく言われ、私もそう思います。しかし、民主政治を揺るがす基本中の基本の問題ですから、避けることはできないのです。

たとえば「桜を見る会」は、多額の税金を使った催しなのです。税金は、安倍さんを支持する人も、しない人も納めています。それなのに安倍さんを支持する後援会の人ばかりを中心に招待するのは不公正ではないか。しかも選挙に利用しているかもしれない。それらが問題の核心です。

そもそも安倍さんも「ちょっとやり過ぎました」と謝り、企業の不祥事と同様「なぜそうなったか第三者によって検証します」と言えば、こんな騒ぎにはならなかった。「そうした批判をするなら来年からやめます」と言うだけでは、一種のちゃぶ台返しです。「どんな人を呼んだのか」「そのなかで安倍さんの後援会の人は何人?」「マルチ商法で儲けた人も呼ばれていた?」。何を聞いても「分からない」と言うばかりです。

 

官僚が劣化している? 萎縮している?

政治

参加者の名簿も官僚が「捨てた」と言う。官僚は昔から情報を隠したがるものですが、今回は組織のためではなく、安倍さん個人のために隠している。そうした状況が続くこと自体、深刻な問題なのです。

資料を「出せ」と言うと「ない」。それが出てきて「なぜ隠していた?」と問われると「そのものずばりの資料を要求されたわけではなかったから」と、のらりくらり。資料の廃棄には廃棄記録を残すルールがあるのに、残されていないことを毎日新聞の記者が明らかにしています。

森友・加計問題のとき、野党が文書の塗りつぶしを「改ざんではないか」と責めると、官僚は「改ざんの定義は、まだ明らかになっておりません」と見えすいたことを言いました。官僚のこうした姿勢も付随した問題です。

官僚は総理のためではなく、国民のために働く。本人たちもそれはわかっている。ではなぜ無理な説明をするか。異動させられるからです。「政治主導」と呼び名はいいが、逆らって飛ばされた人を私は何人も見ています。その恐怖心から官僚が何も言えない状況が続いています。

ちなみに「桜を見る会」に飲食を提供したのは、昭恵さんのお友達の会社でした。しかも本来は入札すべきところ、官僚は「去年もあそこがやったから」。もはや歯止めが利かなくなっている感じがします。政治以前に人間社会の常識として「やってはいけない」ものがある。それが崩壊している。長期政権のおごりなのか、緩みなのか。相当に溜まっている膿を出さないと、日本社会は大変なことになると、そう思うからこそ、「桜の話ばかり」と言われても避けて通れないのです。

 

「桜を見る会」は、選挙にも利用されているかもしれない。

講演2

毎日新聞の若い記者たちが、安倍さんの地元の下関で1週間ほど取材しました。記者から取材されても応じるなと、かん口令の敷かれている地元で何とか取材した結果、安倍さんは単にサービスのために支援者を「桜を見る会」に招待したわけではないことが分かってきました。

同じ選挙区には自民党の林芳正参議院議員がいます。林さんのお父さんは自民党総裁選にも出馬した衆議院議員でしたが、小選挙区になったため、跡を継いだ林さんは参議院に回っているという事情があります。

両者の選挙区の下関で市長選があり、安倍・林陣営がすさまじい戦いを展開しました。同じ地域でも安倍さんの地盤はどちらかというと長門市。下関市を地盤としていて強いのは林派ですが、総理の選挙区の市長選で負けるわけにはいかないと、安倍事務所が主体になって安倍派の市長を誕生させました。その選挙戦に「桜を見る会」が利用された疑いが濃いと記者が取材を通じてつかみ、私も先日、それに関するレポートを書きました。

今ひとつは、自民党総裁選との絡み。国会議員票で強いのは安倍さんですが、地方の党員議員票では石破茂さんが強い。そこで地方の自民党党員を対象にして「桜を見る会」へ招待している気配が濃厚です。税金で運営されている「桜を見る会」が、こうして私物化されている可能性があるのです。

 

法律やモラル以前に、当たり前の常識が破られている。

以前は「ウグイス嬢」と呼ばれた選挙戦の「車上運動員」に対する報酬は、公職選挙法で上限が決まっています。そんなことまで法律で決めてるの?と思うかもしれませんが、公職選挙法は毎年増え、六法は年々分厚くなっています。そこまで法規制をする必要があるのは政治家が無節操だからです。抜け道を探して妙なことをやり、それが表面化すると法律ができる、その繰り返し。選挙だって本来は自由にやるべきなのですが、それでは自由にお金を使う人が出てくるから、制限が必要になるんです。

さて、ご主人が法務大臣までやられた河井案里さんは、参議院選に広島選挙区から出馬し、やってはいけないと分かっているのに、車上運動員に対して法定上限の2倍の報酬を支払い、それを隠すため領収書をふたつに分けました。

カジノ

カジノを含む統合型リゾート(IR)事業を巡るIR汚職事件で逮捕された秋元司容疑者も、業者は力を持っている人に接触してくると分かっていながら、業者が開く催しに出たり、その会社に行ってしまったり。もちろん金銭授受の容疑もかけられています。このように桜の件と同じで、法律とかモラル以前に、いろはの「い」を平気で破っているのです。

さらに河井案里さんに対しては、参院選選挙で自民党から1億5千万円の資金が提供されていました。これにはびっくりしましたが、本人は「もらいました、違法じゃありません」とあっさり認めます。

政治資金報告書に書かれていなければ政治資金規制法の違反ですが、報告書を出す前ですから確かに違法ではありません。ただ選挙費用には「有権者数×いくら」という上限があり、河井さんの広島選挙区は4,000万円ぐらい。それ以上は使えないのです。自民党の参議院議員が党からもらえる金額は、せいぜい1,000万~1,500万円。同じ選挙区の自民党候補の溝手さんは1,500万円だったそうです。

 

1億5千万円の選挙資金提供。その背景にあるのは……。

国会参議院広島選挙区は、溝手さんと野党が1議席ずつ分け合っていました。そこに「2議席取れる」と安倍さんや菅官房長官が県議会議員をやっていた河井案里さんを送り込んだ。ご主人の河井衆議院議員は、菅さんに近いと言われていますが、私の印象では安倍さんに近い人です。選挙の結果、溝手さんが落選、河井さんが当選。そんないわく付きの選挙区で、河井案里さんだけ「1億5千万かよ」という話になっているわけです。

第1次安倍内閣のときに参院選で大敗した安倍さんは、「参院選は政権選択選挙じゃない」と周囲の反対を押し切って総理総裁に居座りました。このとき「大敗は安倍さんの責任だ」と声高に批判したのが、当時参議院のトップだった溝手さんです。

政治家は、特に安倍さんは執念深い。そうでなければ1億5千万円の説明がつきません。建前は2人当選でも本音は「溝手を落とす」ではなかったか。ですから今、自民党議員は「1億5千万も配った」「あそこまで遡っていたのか」と皆がゾッとしています。

こうした多くの問題が、よく分からないまま終わりそうな状況が、現実になりつつあります。特に桜を見る会は、催しの私物化の問題から、文書管理の問題に焦点をずらし、官僚の責任にしつつあります。

世論調査では「桜を見る会」の安倍さんの説明に対して7~8割が「納得しない」と回答しています。ただし、この問題をもっと追及すべきか尋ねると、回答は半々。両極化しています。私も、もっと大事な話が山積しているのに、つまずいている政治を何とかしなければと思います。でも、だからと言って追及を止めることはできないのです。何度も言いますが、民主政治の根幹に関わる深刻な問題だからです。

 

地方創生、人口減少問題の議論を忘れてはいけない。

講演3

多くの問題追及のために、忘れ去られている重要なテーマが「地方をどうするか」、言い換えると「人口減少をどうするか」。人口減少そのものは、止められないかもしれませんが、そのなかで日本がどうやって生きていくのか。人口減少のペースを遅らせるにはどうするかを、議論しなければなりません。

全体人口が減り少子高齢化が進むなか、さらに地方は人口が東京へ流出している。じつは名古屋圏も大阪圏も転出超過。東京だけが膨れ上がっています。それをどう止めるか、きちんと話をしてほしいのです。一方、東京は東京で極端に少子化・高齢化が進んでいます。10~20年で介護難民が東京に溢れるとさえ言われます。

こうした課題を担う地方創生担当大臣の初代は、石破さんでした。安倍さんは、好きではない石破さんを起用することで地方創生にかける意気込みを見せたかったと思います。また、石破さんも色々と努力しました。でも今はそれらが立ち消えになり、地方創生の話をする人がほとんどいません。いち早い政策的議論が必要なのです。

ここでも少し政治体制の劣化のお話を付け加えます。若者の移住支援制度を作った島根県のある自治体が、東京からの移住者を得ています。なかでも移住後に、ある農作物栽培で成功した人の話を、安倍さんはわざわざ個人名まで出して演説で紹介しました。ところが、この件を広島の中国新聞が取材すると、その若い成功者は、すでに土地を離れて東京に戻っていたことが明らかになります。

演説の資料を書く官僚は、普通、最終的に確認をするものです。それをしっかりやっていなかった。まさに政治主導のなかで官僚が劣化していると感じざるを得ません。

なぜ誤った演説になったのかという質問に対する安倍さんの返答には驚きました。「個人情報保護に違反する」。いやいや、NHKが全国に生中継しているなかで、個人名を出して個人情報を公表したのはあなたなのに……。

 

今年の政局は? 解散はいつか?

選挙

安倍総裁の任期は来年の秋。それまでに憲法改正はできないと思います。そこで、オリンピック後に、任期途中で勇退するというのが「五輪花道論」です。1964年も池田勇人さんが、病気はあったもののオリンピック終了を待って退陣を表明しました。それにならうのではないかと思われているのです。

昨年の秋までは、その可能性があると私も思っていましたが、今はちょっと違う。安倍さんの性格からすると、今の状況に対して「このまま、すごすご辞めてたまるか」と思っているかもしれません。

ではどうなるか。今年7月の都知事選と同時に衆院選を解散するかもしれない。桜問題などの騒ぎが続くようだと、嫌気がさして解散した前回と同じで、「解散しちゃおう」となる可能性があるのです。

しかしオーソドックスな見方は今年の秋以降の解散です。なぜ任期途中に行うのでしょう。任期を全うした後に解散すると、次の総裁選は地方票も組み入れることになりますが、任期途中なら緊急事態として国会議員と都道府県の代表だけによる総裁選になります。安倍さんたちが推す次の総裁とされる岸田さんは、地方票が弱いとされるため、国会議員中心の選挙の方が有利なのです。「花道論」とは聞こえはいいけれど、じつはそうした思惑があるように感じでいます。

 


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2024年12月21日 開催

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01/13新春!日本の政治展望前田浩智 氏

02/24ロシアはどこへ行くのか大木俊治 氏

03/013月は休講となります。 
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