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新「大学入試共通テスト」稼働 日本の教育はこう変わる!


2021年2月20日 

中根正義 氏

毎日新聞社 教育事業室

1987年入社。静岡支局(富士通信部にも勤務)、週刊「サンデー毎日」編集次長(教育担当)、教育事業本部大学センター長などを経て、現在、教育事業室(大学担当)。サンデー毎日時代、同誌特別増刊「大学入試全記録」の編集にも携わる。関東学院大学客員教授、芝浦工業大学評議員なども併任。

 

止まらない少子高齢化


私は週刊サンデー毎日での勤務が長く、同誌の名物企画である大学合格者特集などの編集や取材に携わってきました。記者とデスクを12年ぐらい経験した後も、高等教育関係の取材をしてきました。本日は、日本の現状を振り返りながら、これからの時代に求められる教育では何が大事かをお話させていただければと思います。

江戸幕府が誕生したとき、日本の人口はおよそ1,000万人でした。少し安定期に入って3,000万人になり、明治維新のころまでそのくらいでしたが、そこから1億2,000万人まで増えました。ところが、子どもの生まれる数が徐々に減り始め、今の状態が続くと、100年後には一気に落ちて3,000万人ぐらいになるという、そうした時代に私たちはいます。

現在、高齢者の人口が増え、子どもの数が減っています。4人に1人以上が65歳以上で、先進国のなかで、最も高齢化率が高まっています。2060年には約4割が65歳以上になると予想されています。昨年、18歳だった人は約120万人です。去年はコロナもあり、出生数が少し減りました。一昨年が86万人で、今年生まれる子どもはさらに減ると言われています。国の想定以上に急速に子どもの数が減っています。2032、33年には、18歳人口が100万人を切るとも言われています。

 

大学の定員割れと推薦入試


そのような中で、大学の進学率は上昇し続け、53パーセントになりました。現在18歳人口の約半数は、4年制大学に行っています。短大を含めると、58パーセントぐらいになります。81.5パーセントは専門学校まで含めた数字です。大学の数は、子どもの数が減っているにも関わらず増えています。この30年で、約500校から約800校になりました。

入学定員も約47万人から約60万人に増えています。現在、私立では、約4割の大学が定員割れしており、学生の約半分は推薦入試で受け入れようとしています。東大や京大も、推薦入試を始めています。

MARCHと言われる明治、青山、立教、中央、法政の各大学は、1990年代に比べると1.6倍も定員を増やしました。三女子大と言われる津田塾、日本女子大、東京女子大も1.3倍です。日東駒専も1.5倍ぐらい。MARCHが一番、定員を増やし、いろんな学科を増やしている。今の学生は、出来が悪いやつがいるけど、どうなっているんだと。そんなぼやきをMARCH出身のOBやOGから聞くことがありますが、定員を増やしたことと関係があるかもしれません。

 

地方では大学の統合が進んでいる

ところで今、少子化の中で、大学は飽和状態を迎えようとしています。ここ十数年で、120万人いた18歳人口が100万人に減ると言いました。大学進学率が50%とすると、大学に行く10万人分の定員がなくなるということです。今、一番入学定員が多いのは、日大で約1万5,000人。次が早稲田で約9,000人。近畿大学で8,000人。立命館が7,000人。単純に10万人が減るとは、日大クラスの大学が6校分、早稲田で11校分、近大で12校分ぐらいなくなる計算になります。

地方にある大学の入学定員は800人とか1,000人程度です。ですから子どもの数が減っている地方を中心に、これからは大学の淘汰が本格化する時代を迎えます。消える大学が出てくるし、国公私立の枠を越えた大合併も起きるでしょう。静岡では浜松医科大学と静岡大学の法人統合が進められています。愛知県ではすでに名古屋大学と岐阜大学の法人が統合されました。

地域にある大学がなくなれば、それは地元の高校や中学校、小学校にも影響してきます。
さらに、地域の企業への人材供給源がなくなることにつながりかねません。国としては県都以外の第二、第三と言われる都市にある大学は、統合するかたちで残すことで、地域の産業を守ろうと考えています。

 

第四次産業革命は世界のあちこちで起きている

私たちが学生だったとき、第一次産業革命や第二次産業革命のことが歴史の教科書に出てきたと思います。今は、第四次産業革命の時代と言われ、私たちはそんな激動期に生きています。

静岡の裾野市でトヨタが関連会社の工場を閉鎖し、新しい実験都市を作ることを始めました。まちづくりのなかでモビリティ、車をどう生かしていくかの実験をするそうです。
パナソニックも、ロボットなど付加価値の高いものを作ろうとしています。

日本は今、Society5.0を打ち出していますが、これからどうなるのでしょうか。
1980年代、日本は世界に名だたる工業生産国で、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われました。当時アメリカの視察団が、日本の強みは何か徹底的に研究しました。

アメリカは、次の時代を見据え、大都市間に光ファイバー網を構築し、IT産業を勃興させ始めたわけです。日本はそれまでの成功体験にとらわれ、大きく出遅れました。

IT産業はものを作ることではなく、プログラミングをして自分たちがやりたいデバイスを作る、すなわちソフトを生み出すことで成り立っています。アップルの機器には日本のメーカーの素材が使われていますが、ソフトの開発はアップルの社内で行われています。
そして、ビッグデータを集めて、さらに新しいソフトが生み出されています。

情報化社会が進み、ビッグデータ、データサイエンスが注目されていますが、日本は2周、3周遅れと言われています。この分野の研究者も少なく、人材をどう育成していくかが課題になっています。

 

AIが発達することで、人相手の仕事が顕在化する

銀行の窓口業務も7、8年前まで、三大メガバンクでは年間2,000人以上新卒を採っていました。今では数百人です。窓口業務をAIにやらせる。無人化できるとこはAIに置き換えようとしています。残る仕事は、人が相手の仕事です。心理学者、保育士、栄養士、教育コーディネーター。人事のマネージャー、博物館の学芸員、人相手の仕事が多く残ります。

技術のスピードで言うと、固定電話は普及するのに50年かかっています。今では、携帯は10年、スマートフォンは5年で一気に普及が進み、スマートフォンで電子決済ができる時代になりました。5Gは通信速度が速く、アメリカと中国の間の対立がすごいのですが、中国なりに、やむにやまれぬ状況がありました。中国の国土は広大です。光ファイバーの回線を引こうと思っても、コスト的に全く合わず無線の技術や衛星回線を使うほうが効率的でした。90年代から、優秀な人材をアメリカの大学などに送り込み、技術開発を進めました。中国なりの事情で技術革新が進んだということも頭に入れておくべきです。

 

自ら「問い」を立て、「解」を導き出す力が必要になる

1989年、日本はバブル景気に沸き、世界中の企業を日本の企業が凌駕しています。世界時価総額ランキングのベスト30を見ても、日本企業がずらりと並んでいました。
現在、日本の企業のトップトヨタで20位台。上位50社に2社か3社しかない状況です。顔ぶれが完全に変わりました。

90年代まで、海外旅行に行くと、空港の近くに巨大な日本企業の看板がありました。最近は中国や韓国の企業に変わっています。日本の企業の勢いがなくなってきたのが分かります。

今までは工業化社会で、ある程度欧米をキャッチアップする社会でした。既存の知識、技能を習得して早く効率的にやることが重要でした。日本は明治時代以降、欧米の技術を分かりやすく伝えるために、全部日本語に置き換えてきました。高等教育も日本語でやってきたのですが、そんな国は日本ぐらいしかなく、厚い中産階級の基盤を作りました。

しかし、グローバル社会となり、英語が世界の標準語となるような時代となると、母国語が中心の教育では世界の流れから取り残されることになります。また第四次産業革命とも言われる時代になり、知識とか技能に加え創造性が求められるようになりました。

解がない時代に自ら「問い」を立て、「解」を見つけていくことが大事になりました。受け身ではなく、能動的であることが、大きなキーワードです。変化が激しい、予測ができない社会で必要な能力です。主体的、能動的で生涯学び続けることが大事になりつつあるということです。

人工知能やコンピューターは、答えが一つなら答えを出してくれます。しかし、クリエイティブなところで勝負していかなければいけないため、主体的に働く人材が求められるようになりました。クリエイティブな仕事をするためには、自分で学ぶ時間が大切になり、刺激を受けることも大事です。働き方改革や、ダイバーシティ、女性活躍が叫ばれるようになったのも、こうした流れの中で考えると分かりやすいのではないでしょうか。女性活躍を考えると、子育てとか育児、出産をどうサポートするかということになります。

女性の働き方改革も、そうした社会背景とリンクしています。

ところで、現在、好景気が実感できないのに人手不足と言われるのはなぜでしょうか。
団塊世代のボリュームゾーンが、引退しはじめて、補う子どもの数がいなくなっているからです。

科学技術の進歩によるオートメーション化により、半数に近い仕事は消えます。複雑化して解のない問題に取り組んでいく力が求められます。現在、新型コロナウイルスの感染拡大が続いていますが、この先、どのように終息していくのか分かりません。まさに「解」のない社会課題に向き合っていることになります。

 

今本当に必要な学力の要素とは

これからの時代に必要な能力について、改めて整理しましょう。
知識・技能に加え、思考力・判断力・表現力と、主体性・多様性・協働性です。大学入試では2021年から共通テストが始まりました。また、小学校ではプログラミング教育が必修になりました。小学校5、6年で英語が正規の教科になります。英語は今までは読む、書くだけだったのが、聞く、話す、を求められます。授業ではアクティブラーニング、情報教育が重要になっています。

これから求められる能力は、自ら「問い」を立てて、解決できる力です。そして、コミュニケーション能力とプレゼンテーション能力です。相手と議論しながら、刺激しあって発想を豊かにしていく。自分の言葉で相手に伝える力が大事になります。何を知っているかの知識・技能と、知っていることをどう使うか、思考力・判断力・表現力が大事になってきて、さらに自ら学ぶこと、自分に動機付けをして、やる気になることが大事だと言われています。

 

工芸融合・文理融合を進めるべき時代に

高大接続教育改革で重要なのは、思考力、判断力を育成する点です。ICTのリテラシーを高めましょう、プログラミングとデータサイエンスをやりましょうということと、医理工連携や、工芸融合、文理融合が言われるようになっています。医工の連携とは、ダビンチ手術のようなロボットの手術が行われるようになってきました。かつては神の手、ゴッドハンドと言われるような外科医が行っていた手術が、ロボットで簡単にできるようになってきました。医工連携は東京医科歯科大学と東京工業大の取り組みがよく知られています。

工芸融合は、工学と芸術の融合と言われます。日本で売れているアップルの製品はデザイン性に優れていますね。こうした取り組みが工芸融合にあたります。文理融合は、情報通信技術の発達で、ビッグデータを用いてさまざまなことを分析することができるようになり、経済や経営を研究する人などは文系であっても統計学の素養が必要になりました。

今年、早稲田大学の政経学部が数学を共通テストで課したら、志願者が減りましたが、これは、これからの時代を見据え、文系の人でも数学的思考が必要だというメッセージなのだと思います。早稲田は批判承知で入試改革をやり始めました。文系の人間も必ず数学を勉強する。世界の流れに合わせて、世界標準の大学にしようと考えているからこその取り組みと考えてください。

次に語学ですが、GAFAは世界中の優秀な人材を集め、共通語に英語を使っています。異文化理解、コミュニケーション能力が必要です。相手の宗教、宗教的な背景も踏まえながら考える、そこでダイバーシティが重要になっているのです。このように社会は今、急速に変化しています。ですから、主体的に自ら進んで学ぶことが重要ですし、生涯学び続けることが大切になってくるのです。大学を卒業したら終わりでなく、そのあとも、大学に戻って勉強が必要になるような時代が、すぐ近くまで来ています。

 

教育の質的転換、待ったなし

知識はインプットしてアウトプットしなければいけません。コミュニケーション能力とつながるのですが、知識のインプットをするときには、活字を読み、理解することで読解力が身に付き、読解したものが知識となって身に付きます。相手に分かるように、分かりやすく伝える力、知識を再構成し、自分なりの論理構成で相手に説明する。思考力とか判断力を生かすことになります。表現力はアウトプットのほう、論理的な文章を書くことで、相手に論理的に伝えられます。記述式の問題の導入が言われる理由は、こことリンクしています。

これまで話してきたように、現在、教育の質的な転換が求められています。初等中等教育が変わるのなら高等教育も変わらざるを得ません。小学校で、英語が必修化された子たちがこれから中学校、高校へ入ってくるわけです。大学にも入ります。そういう子たちに対応できるようにしなければいけません。高等教育機関は待ったなしの状況です。

学習指導要領が改定され、高校での学びが2022年度から大きく変わります。学力の3要素が重視されるようになります。一斉授業から双方向型の授業に変わるということ、英語教育がより重視されるほか、プログラミングに関する情報科目が新設されます。そして2025年春の大学入試もこれに合わせて変わります。

ところで大学入試センター試験は、知識の量や正確さを問う問題が多かったのですが、大学入学共通テストに変わり、図やグラフを見て考えさせる問題が増えました。もう1つ、現代社会が直面している問題を題材とした出題が多かったのです新型コロナウイルスとか、フェイクニュース。時事問題は自分から積極的に世の中に関心を持っていないと難しかったようです。英語は今までと問題が違って、実用的なものが多く出たと言われています。

 

リーダーシップとフォロワーシップ

これからの時代は、さまざまな情報を収集して、客観的に分析し、評価し、総合的な思考で合理的な判断ができることが大事です。「リーダーシップ」と言われますが、リーダーは一般に一つのグループで1人しかいません。他の人は、リーダーがやれば俺らは何もやらなくていいとと考えるのは正しい組織の在り方ではありません。リーダーでなくても自分が与えられた範囲のなかで、どう自分が役割を果たせるかを考えることが大事です。それがフォロワーシップです。

近年、大企業では実際にグループワークをやらせるときに、フォロワーシップを見ていると聞きます。グループワークをやらせて、各自が、どうフォロワーシップを働かせているかを見ています。

 

結局、人との出会いが大切な要素

現代はインターネットの時代だと言われますが、やっぱりヒューマンネットが最終的には大切だろうと思っています。私自身の話で恐縮ですが、私は教員になろうと教員試験受けて合格していたのですが、毎日新聞にも受かった。先生から「新聞記者も面白いからやってみろ。やってみて駄目だったら、また教員採用試験受けりゃいい」と言われまして、それがあって、今ここでお話をさせていただいているわけですが、さまざまな出会いが自分を成長させてくれたと感じています。人とのリアルな出会いを大事にしたいし、大事な要素だと思います。

 

質疑応答

男性A「サンデー毎日に大学合格者高校別ランキングがありますが、個人情報が厳しくなっている昨今、どうやって調べているのですか。また、出すことに意味はあるのですか。」
中根氏「頭の痛い質問です。今は各高校にアンケートをしたり、大学からの情報で誌面の編集をしています。実際の特集は、普段より部数が倍以上売れ、なかなか外せないコンテンツになっています。受験競争を助長しているというご意見を甘んじて受けますが、ほかにもいろいろな特集をしています。文科省の方にインタビューをしたり、頑張っている大学の学長さんに話を聞きに行ったり、総合的に、いろいろな情報をお伝えしています。」

女性B「9月入学の話が立ち消えになりましたが、現状はどうなっていますか。また、オンラインの授業はその後どうなりましたか。」
中根氏「9月入学は、完全になくなったわけではありません。大手の大学は留学生を受け入れるために実施しています。グローバル系を標榜している大学では、秋入学もあります。オンラインの授業は、賛否両論がありました。大学に通えず友達作りができないと問題になりました。一方で、双方向の授業をしているケースでは、分かりやすいと評判でした。映像を撮っておいて配信するのも、好きな時間に見られるので良かったという声もあります。今は大学でも通信回線が整うようになってきており、ずい分、一般化してきたのではないでしょうか。」

男性B「少子高齢化で、子どもの数が減り、大学の競争倍率も小さくなると、学生の質の担保がなされないように思います。そのへんはどうお考えですか。」
中根氏「研究系を標榜している東大、京大、筑波大学辺りで、学長たちが一様におっしゃるのは、人の数がある程度いれば裾野は広いのですが、裾野がしぼんでいくと学生の質が落ちていくと指摘しています。質を担保するためには、定員を減らすことも考えないといけないと言われています。その中で大学の合併という話も出てきています。国立大学ではより進むと思いますし、国立と公立大学が統合する例も増えると思います。問題は、国公立と私立です。私立の場合、創立者がいて、創立の理念があるわけです。国立とは少し違います。一緒になるのではなく、単位互換とか、お互いに足りない部分を持ち合うという方法について議論がなされ始めています。」

男性C「選挙権が18歳からになりましたが、授業のやり方などに影響はありますか。」
中根氏「高校でも主権者教育が入り始めていますが、政治的なことにタッチすることに、先生たちがセンシティブになっている部分があります。その難しさをどう乗り越えていくか。まだまだ広がりがないところではあります。」


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開催スケジュール SCHEDULE

崖っぷちのSDGsを救えるか~若者たちの挑戦に学ぶ~

2024年12月21日 開催

崖っぷちのSDGsを救えるか~若者たちの挑戦に学ぶ~

日時
2024年12月21日[開始時刻]15:00[開始時刻]14:30
会場
毎日江﨑ビル9F 江﨑ホール
WEB配信
WEB配信あり

2024年カリキュラム CURRICULUM

タイトル 講師

01/13新春!日本の政治展望前田浩智 氏

02/24ロシアはどこへ行くのか大木俊治 氏

03/013月は休講となります。 
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04/06現地で6年半暮らした元エルサレム特派員が語るイスラエル・パレスチナ紛争の本質大治朋子 氏

05/18日韓関係の改善は本物なのか澤田克己 氏

06/15宗教と政治を考える坂口裕彦 氏

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07/13揺れる価値観 パリ五輪を展望岩壁峻 氏

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